グレーゾーンとはADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症 Autism Spectrum Disorder)などの発達障害の特性(傾向)はあるものの、診断基準の数や頻度を満たしていない状態のことを表した言葉です。保育園の現場では、「気になる子」と言われることもあります。
最近、「グレーゾーンの子が増えた」「グレーゾーンの子が多くて大変」など、どこの保育園でも同じような声を聞きます。
また、「○○障害」「療育」「発達支援」などを耳にする機会も増え、そういった研修会や療育支援施設も増えてきました。保育園の保護者会でも、その話題になり、心配されている方が多い印象です。
今回は、グレーゾーンの子が増えていることについて、保育士目線で考えたいと思います。
※この記事でいう「グレーゾーン」は、医学的な診断ではなく、保育現場で「気になる子」と感じる場面も含めて書いています。
グレーゾーンの子は本当に増えたのか?
まず、実際にグレーゾーンの子が増えているのかどうかについてです。私自身、10年以上保育に携わる中で、「気になる子」が以前より増えたように感じています。なぜなら、私の勤めている園だけの話ではなく、他の保育園の話を聞くと「うちのクラスはグレーゾーン多くて…」「20人中8名がグレーゾーン」などこうした話を耳にする機会が増えたからです。具体的に言うと、10年ほど前は、20人中1~2人がグレーゾーンの子(気になる子)といった話をよく耳にしていましたが、最近は、20人中8~10人ほど。あくまで保育士の感覚に過ぎませんが、あながち間違いではなさそうです。
長崎市のR7年度5歳児健康診査実績報告を見てみると、対象者2,470人中2,332人が受診し、「異常なし」が46.5%という結果でした。ただし、経過観察には発達面以外の項目も含まれるため、この数字だけで発達特性のある子どもが半数以上いるとは言えません。

R6年、R5年と遡って比較したい所ですが、5歳児健康診査はR7年度からスタートしておりデータがありませんでした。この結果だけでグレーゾーンの子が増えているとは断定できません。しかし、保育現場で感じる変化と合わせて考えると、現場で「気になる子」が増えたと感じる保育士が多い理由の一つなのかもしれません。
なぜグレーゾーンが増えたのか?
発達障害が専門の児童精神科医の方に取材している分かりやすい記事があったので共有します。
発達障害が増えた原因を要約すると、国際的に用いられている診断基準が改定されて、【診断の枠組みが広がったこと】【発達障害という言葉が社会に広がり、多くの人から認識されたこと】【発達障害を診療できる医師が増え、診断数が増えたこと】【発達障害と診断される成人が増えていること】が原因として挙げられるそうです。
この記事の中で、「発達障害の人が本当に増えたというよりもむしろ、発達障害と診断される人が増えたと考えられる」と専門医の言葉が書かれていますが、発達障害の診断を受ける子が増えている原因は納得できました。
しかし、冒頭に書いた「グレーゾーンの子が増えている」という保育士の感覚の話とは意見のズレがありそうです。10年前の気になる子の数と現在の気になる子の数の違いが、診断を受けているかどうか、世間的な発達障害の認識の話では説明できません。
保育士目線のグレーゾーンが増えた理由
保育士目線の意見ですが、グレーゾーンが増えた理由は大きく分けて2つあると思っています。まず1つ目に生活習慣の変化です。最近の子は、YouTubeやTikTokなどSNSを見る機会が多くなりました。保護者の悩みとしても必ずこの話題が挙がってきますが、YouTubeやスマホの利用が生活リズムや睡眠に影響し、その結果として集団生活に適応しにくくなる子もいるのではないか、と私は感じています。
実際に「子どもがYouTubeやスマホゲームをいつまでやっていたのか、何時に寝たのかも分からない」と言った保護者がいましたが、ゲームをするのを止めるように言うと、かなり機嫌が悪くなり手が付けられなくなるそうです。
保育現場で「グレーゾーン」と表現される子の多くが、気持ちの切り替えができない子や、感情の起伏が激しい子、やる気や興味がなく集団の流れに遅れがちな子です。こういった子たちを見ていると家庭での生活リズムや親子の関わり方が影響しているケースもあるように感じます。

2つ目の理由が、教育観の変化により境界線を示す大人が減ったことです。最近、保育園だけでなく小学校や中学校も教育方法の変化が著しくなりました。簡単に言うと、大人が指示を出して子どもを動かすという方法から、子どもが自ら選択し行動する子ども主体の方法へと変わってきています。
大人が指示を出して子どもを動かすのは割と簡単です。しかし、子どもに考えさせ自ら動くようにするのは難易度が高く安易に叱ることはNGとされています。そのため、叱りづらい、強く言えないと感じている大人が増えているのではないでしょうか。
少し前に、小学校の授業参観に行きました。その時に、授業中に走り回る子がいても注意しない。大人が話している時に好き勝手にしゃべっていても注意しない。という場面を見ました。また、学童の子どもたちとの普段の関わりから「自分さえ良ければいい」という考え方が増え、他者への気遣いが欠けている事例が多くなっている気がします。
境界線を示される経験が少ないことで、善悪の判断や気持ちのコントロールが難しくなる子もいます。自分の思い通りにならないとダダをこねたり癇癪を起したりする子が増えた結果、「手がかかる子」「気になる子」「面倒な子」のような印象を受けて、グレーゾーンという枠組みに当てはめているのではないでしょうか。

現代の子に必要な関わり方
保育士目線でグレーゾーンが増えた理由を書きました。要点をまとめてもう一度お伝えすると、保育現場で「グレーゾーン」と表現される子どもたちは、必ずしも発達障害という意味ではなく、生活習慣や親子関係、教育環境など様々な要因によって「集団生活で困りごとが見られる子」を指している場合もあります。
その子たち対して、保育士としてどのように関わるべきでしょうか。
私が気を付けている点を2つ紹介します。
①子ども主体を重視すると言っても、叱るべき点は叱ること。
⇒子ども主体を重視することはすごく大切なことですが、すべてを子どもに任せ自由奔放にさせることが子ども主体ではありません。いくら子どもが「やりたい」と言っても容認できないこともあります。例えば、他者を傷つけるような行為などです。人間社会で生きていくには人間社会のルールや規範意識が必須になるため、間違ったことをしたのであれば叱ることも子どものために必要なことだと思います。
私の勤めている保育園や学童では、「他者を傷つける行為」「誰かを意図的に邪魔する行為」については叱ると職員同士でも、子どもや保護者とも共通認識が取れるように伝えていってます。
②体験を大事にすること。
⇒子どもの学びは、体験の中にあります。一見ただ遊んでいるだけのように見えても遊びの中で様々な体験をしているのです。例えば、一緒にブロックを積み上げてタワーを作る中にも、相手のイメージと自分のイメージを伝え合うことが必要になりますし、相手のペースに合わせたり、役割分担をしたりすることもあります。時には思い通りにならないこともありますが、自分の気持ちに折り合いをつけ、葛藤しながら感情をコントロールしていくのです。
グレーゾーンと言われる子や、「手のかかる子」「周りよりも気になる子」などは他の子に比べてこうした体験が不足しているのかもしれません。
他の子たちは、1~2歳の時には様々な気持ちの葛藤を体験していたけれど、3~4歳で初めて気持ちの葛藤にぶつかった時は、クラスの中では浮いたような存在に見えるでしょう。だからこそ、体験が不足しているのならその体験を補ってあげられるように環境を考え、大人の関わり方も考えることが大事だと思います。
実際に学童でも、発達障害なのではないか?と当時2年生の子が議題に挙がったことがあります。しかし、その子とじっくり関わることで、自分の気持ちに折り合いを付ける体験が不足していたことが原因だと分かりました。そのため、他の子よりも丁寧に気持ちに共感したり、代弁したりすることで次第に目立たなくなり今では頼りになる高学年です。
最後に
長崎市の5歳児健康診査の実績報告を受けて、グレーゾーンに着目して記事を書かせてもらいました。
あくまで個人的な意見なので間違っている点もあるかもしれません。しかし、保育園や学童で実際に子どもと関わった上での意見です。
ある児童発達支援センターの方から、「今、需要が高い分野だからやったほうがいい」と言われたことがあります。また、児童発達センターの職員さんが、「普段の保育園での様子を見たい」と連絡があり、見学に来たことがあります。児童発達センターの時と様子がまるで違い、のびのび活動していることや他の子と関わっている様子に驚いていました。
発達障害と診断される子どもが増え、発達支援センター等の需要も高まっています。保育園の補助金申請にも発達支援センターに通っている証明が必要なため、療育機関に通う子は増えました。しかし、”形”だけになっていないか?本当に子どもの為になっているのかどうか?という点が気になります。私たちにできることは、どんな子であってもその子にあった保育方法を模索し、環境調整し工夫していくことです。「グレーゾーン」という言葉だけで子どもを見るのではなく、一人ひとりの育ちや背景に目を向けながら、その子に合った関わり方を考え続けることが、保育士として最も大切だと私は考えています。
おわり