保育士の人間関係が悪化しがちな理由はなんでしょうか。
今日、養成校の学生さんが園見学に来ました。
私は対応していませんが、対応した職員の話によると、すでにいくつかの園を見学しているそうです。
「見学しても人間関係までは分からないのが怖い」
学生さんが言った言葉ですが、やはり就職を考える上でも保育士の人間関係は気になりますよね。
厚生労働省の資料でも、保育士が仕事を辞めた理由として「職場の人間関係」が挙げられています。
私の知り合いにも、人間関係を理由に保育士を辞めた人はいます。一方で、保育士を続けてはいるものの、職場の人間関係に悩みながら働いている人も少なくありません。
では、なぜ保育士の人間関係で悩む人が多いのでしょうか。
今回は、私自身の経験も振り返りながら、保育士の人間関係が悪化する原因と、改善するためにできることを考えていきます。
保育士の人間関係が悪化する原因
先に結論から言うと、私は、保育士の人間関係が悪化する大きな原因の一つが、組織内の情報共有不足だと考えています。
ここでいう情報共有は、単に「子どもの様子を伝える」といった業務上の情報だけではありません。「クラスや事務所や調理も含めて誰が何を担当しているのか」「困ったときに誰が対応するのか」「園として何を大切にするのか」「なぜ、このルールになっているのか」こうしたことまで職員同士で共有されているかどうかも含みます。
情報が共有されていない職場では、「聞いていない」「知らなかった」ということが増え、職員同士の認識のズレや衝突につながります。
例えば、お互いに何をしているのか分からない。特定の人がいないと対応できない。担当者以外は関心を持たず、業務の負担が一部の職員に偏る。曖昧なルールや決まり、暗黙のルールがある。「前からこうだから」という理由で、誰も見直さない。それなのに、特定の人の意見で突然ルールが変わる。そうした認識のズレが積み重なることで、職員同士の不満や陰口につながったり、何か問題が起きたときに責任の押し付け合いや犯人探しが始まったりすることもあります。
こうしたことが続けば、「どうして自分だけ知らされていないのだろう」「何を基準に判断すればいいのだろう」と、不信感につながってしまいます。
こうした小さな認識のズレや不信感の積み重ねが、保育士の人間関係を悪化させる一因になるのではないかと思います。
一方で、お互いに何を担当しているのかが分かっていて、誰かが休んでも他の職員が対応できる。担当者だけに任せるのではなく、困っている人がいれば自然に助け合える。園のルールが明確になっていて、必要であれば職員みんなで見直すことができる。誰かの失敗を個人の責任だけにせず、「クラスのこと」「園全体のこと」として考えられる。
そんな職場だったら、どうでしょうか。きっと、働きやすい職場だと感じる人は多いと思います。
私の勤める園でも、数年前から組織内の情報共有について見直しを進めてきました。情報共有の方法を変えることで、職員同士の「知らない」「聞いていない」「分からない」が少しずつ減っていき、居心地も良くなったように感じています。
ではここから、保育士の人間関係にも関わる「組織内の情報共有」について、実際に何を変えてきたのか具体的に紹介していきます。
組織内の情報共有の見直し
先ほど挙げたような問題は、私の勤めている園でも実際に起こっていました。
一つひとつ別の問題として捉えていましたが、今振り返ってみると、その多くに「情報が共有されていない」という共通点があったように思います。
そして、これまで取り組んできたことを整理すると、「可視化」「明確化」「更新と仕組み化」という3つのキーワードに分けることができます。
可視化
保育園の仕事は、子どもと関わることだけではありません。行事の準備、事務手続き、調理、書類の作成、園内の環境整備など、さまざまな仕事があります。業務分担表や係分担表などはもともと存在していますが、「それは○○先生しか分からない」「○○先生が休みだから今日はできない」ということが起こっていました。さらに、「何をしているのか分からない」「自分たちばかり忙しい」といった不満につながることもありました。
そのため、担当者を決めるだけではなく、「今、誰が何をしているのか」「どこまで進んでいるのか」「困っていることはないか」を、できるだけ共有するようにしてきました。
具体的には、年間計画表を見直し、クラス、事務、調理それぞれの業務を一つの表に落とし込むことで、クラスや役割を越えて把握できるようにしました。
また、行事や係のファイルには、「いつ頃、何をしたか」が分かるようにカレンダー形式の記録を取り入れました。就業規則などとは別に、保育の場面ごとの判断基準や軸となる考え方、ルールなどをまとめた職員共通理解用の冊子も作成しました。
さらに細かい部分では、機材の使い方やファイルの記入方法などを、機材やファイルそのものに直接貼り付けるようにしました。
こうした取り組みで意識したのは、「担当者を決めること」と「担当者しか分からない状態にすること」は違うということです。担当者は必要ですが、その人が休んだら分からない、その人に聞かなければ進まないという状態は、できるだけ減らしていきました。
明確化
職場には、さまざまなルールがありますが、ルールがある理由までは共有されていないことがあります。「前からこうだった」「今までこうやってきたから」と暗黙のルールになっていたり、ベテラン保育士の判断に委ねるといったことが実際に起きていました。また、人によってルールの解釈の仕方が変わることで、言いづらさや衝突も起きていました。
そのため、どんな些細なことでも「曖昧なこと」「分からないこと」「保育中に困ったこと」などを出し合い、共通のルールを作り記録していきました。
具体的には、すべり台の使用方法、予防接種を受ける場合の出席の扱い、感染症の受け入れや対応基準、ケガの対処の仕方、トイレトレーニングの考え方、保育中の散歩の意図などです。保育中に気づいたことを付箋に書き出しておき、毎週金曜日にみんなで話す時間を設けて取り組みました。
すべてのことに細かなルールを作ればいいということではなく、「園として何を大切にしているのか」という判断の軸を共有しておくことが大切だと思います。また、園長や主任が一方的にルールを決めるのではなく、実際に保育をする中で職員が感じた小さな疑問を、そのままにしないことも大切です。
話し合っていくと、同じ園で働いていても、職員によって考え方や判断基準が違っている場面が思っていた以上に多いことに気づきました。その違いをお互いに知らないまま働いていると、「あの先生はやってくれない」「前はこう言われたのに」「人によって言うことが違う」といった不満につながります。だからこそ、曖昧なことを表に出し、話し合い、園としての考え方を明確にしていくことを大切にしました。
更新と仕組み化
「可視化」と「明確化」に取り組むことで、組織内の情報共有は以前よりもスムーズに行えるようになりました。しかし、それで終わりではありませんでした。
取り組みを進める中で、誰かが課題を見つけ、常にリードしていかなければ変化が起きないという新たな課題も見えてきました。本来は、現場で保育をする一人ひとりが課題に気づき、自分たちで改善していくことが必要です。
そこで、職員みんなで「課題を見つける練習」に取り組んでいます。普段の保育や仕事を振り返り、「困っていること」「やりづらいこと」「もっと良くできそうなこと」などを出し合い、見つかった課題は廊下に貼り出して、「これからみんなで解決していく園の課題」として可視化しています。
また、課題を見つけて終わりにするのではなく、「なぜ、この問題が起きているのか」と根本的な原因を考え、大きな課題は解決できる大きさまで細分化し、一つずつ取り組んでいくことも始めています。そして、「課題に気づくこと」「改善するために実際に動くこと」も評価していくことにしました。
この取り組みは、まだ始めたばかりで、うまくいかないことや、仕組み自体を見直すことも出てくると思います。誰か一人が課題を見つけ、改善策を考えるのではなく、一人ひとりが課題に気づき、みんなで共有し、改善していく。そんな組織を目指して、現在も試行錯誤を続けています。
保育士の人間関係の問題に見えて、実は仕組みの問題かもしれない
ここまで、私の勤める園で取り組んできた情報共有の見直しについて書いてきました。
もちろん、情報共有を見直せば、保育士の人間関係に関するすべての問題が解決するわけではありません。人と人なので、考え方が合わないこともあれば、保育に対する考え方が違うこともあります。
ただ、これまでのことを振り返ると、「保育士の人間関係の問題」と思っていたことの中には、実は組織の仕組みが原因だったことも多かったのではないかと感じています。
「あの先生は何もしてくれない」「あの先生に聞かないと分からない」「私はそんな話を聞いていない」「前はこう言われたのに、人によって言うことが違う」こうした不満は、相手への不満として表れます。
しかし、その背景には、「お互いの仕事が見えていない」「情報が一部の人にしか共有されていない」「判断の基準が曖昧」「話し合う仕組みがない」といった組織の問題が隠れているのかもしれません。
そう考えると、人間関係を良くするために必要なのは、単に「職員同士で仲良くすること」ではないと思います。
「知らない」「聞いていない」「分からない」を減らす。曖昧なことをそのままにせず話し合う。困っていることや課題をみんなで共有し、誰か一人の問題ではなく、園全体の問題として考える。そうしたことの積み重ねが、職員同士の不信感を減らし、結果として働きやすい人間関係につながっていくのではないでしょうか。
冒頭に、 「見学しても人間関係までは分からないのが怖い」 という学生さんの言葉を紹介しました。
園見学の時間では、人間関係までは見えにくいかもしれませんが、その園がどのように情報を共有し、困ったことを話し合い、改善しているのかを見ることはできるかもしれません。
例えば、
「職員会議以外で、職員間の共有はどのように行っていますか?」
と聞いてみるのも一つだと思います。その答えから、その園が職員同士でどのように支え合い、組織として問題を解決しているのかが、少し見えてくるかもしれません。
おわり