保育の質を向上させる方法を保育実践付きで紹介!

  • 2024年11月7日
  • 2024年11月7日
  • 保育園

保育の質を向上させたいけどやり方が分からない。

保育に携わる方でこんな悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。そんな悩みを抱えている方は、保育に本気で向き合っているのだと思います。

私は、保育の質の高め方の答えが分かる訳ではありません。各保育園によって保育の質を高めるための効果的な方法は違うからです。しかし、実際に保育士としての経験から保育の質が高まるために必要な要素は分かるつもりです。

今回は、保育の質をテーマに保育所保育指針のおさらいと保育現場の実践紹介をメインにまとめました。

保育の質とは?

そもそも保育の質とは何か?

OECD(経済協力開発機構)は、幼児保育の施策の提言であるスターティング・ストロングⅣにおいて、保育の質の包括的定義として「子どもが心身ともに満たされ、より豊かに生きていくことを支える環境や経験」ということを挙げています。

OECDの目的としては、先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、経済成長、貿易自由化、途上国支援に貢献することです。38か国の加盟国の中に日本も入っています。スターティング・ストロングⅣとは、OECDがまとめた報告書「スターティングストロング報告」を基に、乳幼児期の教育・保育の質の向上を目的とした取り組みのことです。

 

難しいですよね…。スターティング・ストロングⅣを読んだことありますが、内容はもっと難しいです(笑)

簡単に言うと、各国の経済変化やその背景にあたる教育方法や子どもの学力、犯罪率などの研究結果が紹介されており、教育と経済発展の関係性などをまとめられています。

保育の質の包括的定義として「子どもが心身ともに満たされ、より豊かに生きていくことを支える環境や経験」とありましたが、申し越し具体的に言い換えるならば、「子どもが安心して伸び伸び生活できること」「充実した遊びと生活の中で様々な経験を積むことで、生きるための基礎を身に付けること」「充実した遊びと生活を送るための保育環境や保育方法がなされていること」と言えるのではないでしょうか。

日本の保育所保育指針の保育所保育に関する基本原則の中にもそういった内容はしっかりと記載されていますよね。

保育所保育に関する基本原則

1 保育所保育に関する基本原則

(1) 保育所の役割

ア 保育所は、児童福祉法(昭和22年法律第164号)第39条の規定に基づき、保育を必要とする子どもの保育を行い、その健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場でなければならない。

イ 保育所は、その目的を達成するために、保育に関する専門性を有する職員が、家庭との緊密な連携の下に、子どもの状況や発達過程を踏まえ、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行うことを特性としている。

ウ 保育所は、入所する子どもを保育するとともに、家庭や地域の様々な社会資源との連携を図りながら、入所する子どもの保護者に対する支援及び地域の子育て家庭に対する支援等を行う役割を担うものである。

エ 保育所における保育士は、児童福祉法第18条の4の規定を踏まえ、保育所の役割及び機能が適切に発揮されるように、倫理観に裏付けられた専門的知識、技術及び判断をもって、子どもを保育するとともに、子どもの保護者に対する保育に関する指導を行うものであり、その職責を遂行するための専門性の向上に絶えず努めなければならない。

(2) 保育の目標

ア 保育所は、子どもが生涯にわたる人間形成にとって極めて重要な時期に、その生活時間の大半を過ごす場である。このため、保育所の保育は、子どもが現在を最も良く生き、望ましい未来をつくり出す力の基礎を培うために、次の目標を目指して行わなければならない。

(ア) 十分に養護の行き届いた環境の下に、くつろいだ雰囲気の中で子どもの様々な欲求を満たし、生命の保持及び情緒の安定を図ること。

(イ) 健康、安全など生活に必要な基本的な習慣や態度を養い、心身の健康の基礎を培うこと。

(ウ) 人との関わりの中で、人に対する愛情と信頼感、そして人権を大切にする心を育てるとともに、自主、自立及び協調の態度を養い、道徳性の芽生えを培うこと。

(エ) 生命、自然及び社会の事象についての興味や関心を育て、それらに対する豊かな心情や思考力の芽生えを培うこと。

(オ) 生活の中で、言葉への興味や関心を育て、話したり、聞いたり、相手の話を理解しようとするなど、言葉の豊かさを養うこと。

(カ) 様々な体験を通して、豊かな感性や表現力を育み、創造性の芽生えを培うこと。

イ 保育所は、入所する子どもの保護者に対し、その意向を受け止め、子どもと保護者の安定した関係に配慮し、保育所の特性や保育士等の専門性を生かして、その援助に当たらなければならない。

(3) 保育の方法

保育の目標を達成するために、保育士等は、次の事項に留意して保育しなければならない。

ア 一人一人の子どもの状況や家庭及び地域社会での生活の実態を把握するとともに、子どもが安心感と信頼感をもって活動できるよう、子どもの主体としての思いや願いを受け止めること。

イ 子どもの生活のリズムを大切にし、健康、安全で情緒の安定した生活ができる環境や、自己を十分に発揮できる環境を整えること。

ウ 子どもの発達について理解し、一人一人の発達過程に応じて保育すること。その際、子どもの個人差に十分配慮すること。

エ 子ども相互の関係づくりや互いに尊重する心を大切にし、集団における活動を効果あるものにするよう援助すること。

オ 子どもが自発的・意欲的に関われるような環境を構成し、子どもの主体的な活動や子ども相互の関わりを大切にすること。特に、乳幼児期にふさわしい体験が得られるように、生活や遊びを通して総合的に保育すること。

カ 一人一人の保護者の状況やその意向を理解、受容し、それぞれの親子関係や家庭生活等に配慮しながら、様々な機会をとらえ、適切に援助すること。

(4) 保育の環境

保育の環境には、保育士等や子どもなどの人的環境、施設や遊具などの物的環境、更には自然や社会の事象などがある。保育所は、こうした人、物、場などの環境が相互に関連し合い、子どもの生活が豊かなものとなるよう、次の事項に留意しつつ、計画的に環境を構成し、工夫して保育しなければならない。

ア 子ども自らが環境に関わり、自発的に活動し、様々な経験を積んでいくことができるよう配慮すること。

イ 子どもの活動が豊かに展開されるよう、保育所の設備や環境を整え、保育所の保健的環境や安全の確保などに努めること。

ウ 保育室は、温かな親しみとくつろぎの場となるとともに、生き生きと活動できる場となるように配慮すること。

エ 子どもが人と関わる力を育てていくため、子ども自らが周囲の子どもや大人と関わっていくことができる環境を整えること。

(5) 保育所の社会的責任

ア 保育所は、子どもの人権に十分配慮するとともに、子ども一人一人の人格を尊重して保育を行わなければならない。

イ 保育所は、地域社会との交流や連携を図り、保護者や地域社会に、当該保育所が行う保育の内容を適切に説明するよう努めなければならない。

ウ 保育所は、入所する子ども等の個人情報を適切に取り扱うとともに、保護者の苦情などに対し、その解決を図るよう努めなければならない。

↑長いですが保育所保育指針の抜粋を載せておきます。

保育の質を高めるために抑えるポイント

保育の質とは何か?を紹介しましたが、保育の質を高めるためにはどうすればいいのかについてです。
ここからは、私の保育士の経験も含めてまとめていきます。

まず、「保育の質」という言葉から、保育の内容を意識しがちですが、それよりももっと重要なのは保育園という組織の在り方です。

これには最近気づきました。保育環境や保育方法を変えても持続していかない…。という課題に直面してからでした。継続的な質の高い保育を実現するためには、保育園で働く1人1人の仕事に対するモチベーションや知識や保育スキルはもちろん、職員間の連携などそういった部分が保育に大きく影響することがわかりました。

 

保育の質=職員の質とも言えるのかもしれません。

 

実は、保育所保育指針の第5章は「職員の資質向上」となってます。改めて保育所保育指針を読み返すと、保育の要点をよく押さえてあり、保育所保育指針に書かれた内容をしっかり実現できれば結果的に良い保育が実践できることがわかります。

 

第5章 職員の資質向上

第5章 職員の資質向上

第1章から前章までに示された事項を踏まえ、保育所は、質の高い保育を展開するため、絶えず、一人一人の職員についての資質向上及び職員全体の専門性の向上を図るよう努めなければならない。

1 職員の資質向上に関する基本的事項

(1) 保育所職員に求められる専門性

子どもの最善の利益を考慮し、人権に配慮した保育を行うためには、職員一人一人の倫理観、人間性並びに保育所職員としての職務及び責任の理解と自覚が基盤となる。

各職員は、自己評価に基づく課題等を踏まえ、保育所内外の研修等を通じて、保育士・看護師・調理員・栄養士等、それぞれの職務内容に応じた専門性を高めるため、必要な知識及び技術の修得、維持及び向上に努めなければならない。

(2) 保育の質の向上に向けた組織的な取組

保育所においては、保育の内容等に関する自己評価等を通じて把握した、保育の質の向上に向けた課題に組織的に対応するため、保育内容の改善や保育士等の役割分担の見直し等に取り組むとともに、それぞれの職位や職務内容等に応じて、各職員が必要な知識及び技能を身につけられるよう努めなければならない。

2 施設長の責務

(1) 施設長の責務と専門性の向上

施設長は、保育所の役割や社会的責任を遂行するために、法令等を遵守し、保育所を取り巻く社会情勢等を踏まえ、施設長としての専門性等の向上に努め、当該保育所における保育の質及び職員の専門性向上のために必要な環境の確保に努めなければならない。

(2) 職員の研修機会の確保等

施設長は、保育所の全体的な計画や、各職員の研修の必要性等を踏まえて、体系的・計画的な研修機会を確保するとともに、職員の勤務体制の工夫等により、職員が計画的に研修等に参加し、その専門性の向上が図られるよう努めなければならない。

3 職員の研修等

(1) 職場における研修

職員が日々の保育実践を通じて、必要な知識及び技術の修得、維持及び向上を図るとともに、保育の課題等への共通理解や協働性を高め、保育所全体としての保育の質の向上を図っていくためには、日常的に職員同士が主体的に学び合う姿勢と環境が重要であり、職場内での研修の充実が図られなければならない。

(2) 外部研修の活用

各保育所における保育の課題への的確な対応や、保育士等の専門性の向上を図るためには、職場内での研修に加え、関係機関等による研修の活用が有効であることから、必要に応じて、こうした外部研修への参加機会が確保されるよう努めなければならない。

4 研修の実施体制等

(1) 体系的な研修計画の作成

保育所においては、当該保育所における保育の課題や各職員のキャリアパス等も見据えて、初任者から管理職員までの職位や職務内容等を踏まえた体系的な研修計画を作成しなければならない。

 

保育の質を高めるためには、保育士1人1人の資質向上がカギなのです。

保育の質を高める手順

保育の質を高めるためには、保育士の1人1人の資質向上がカギだと書きましたが、具体的にはどんなことをすればいいのでしょう。

方向性とクリアすべき基準を示す

まずは、保育園としての方向性がしっかり定まっていることが重要です。どんな保育を実現しようとしているのか?を明確にした上で、組織としてのルールもしっかり定めなければいけません。保育園に限らず、他の企業でも従業員に方向性を示し、組織の決まりの中で役割を果たしてもらうことで成り立っていますよね。大企業にもなると方向性が従業員1人1人に浸透し、組織のルールを守った上で、個々の能力を発揮している仕組みが確立されています。

保育園の方向性と言うのは、理念や保育方針のこと。そして、組織のルールというのは、出勤時間や職務や係りの役割、職員間での報告や伝達、子どもとの関わり方のルールなど、職員間で共通認識すべきルールのことです。この組織のルールが定まっていないと組織としての連携が取れませんし、子どもとの関わり方や保護者対応など保育士によってやり方がバラバラになってしまいます。

組織のルールが定まっておらず連携が取れない状態は、保育士1人1人の立場からすると、自分が何が出来ていて何が出来ていないのかも分からない状況です。また、他の人が何を考えて行動しているかも分かりません。そのため、居心地も悪いです。

保育士の資質向上を図るためには、保育士1人1人が目指すべき方向性とクリアすべき基準をしっかりと示すことから始まります。

学び合い高め合うチーム作り

組織としてのルールを守った上で、保育士1人1人の性格や個性、得意分野など個々の特色を生かし合える職員集団になれば、更なる資質向上へと繋がっていきます。

例えば、アイデア力に長けている職員がいれば新たな変化をもたらしてくれ、几帳面な職員がいれば、次年度に向けての改善点をまとめた記録を取ってくれるかもしれませんよね。また、保育中に連携が取りづらいなど細かな所に気づける職員もいます。

こうした、個々の特色を生かし合える職員集団になるには、職員同士で気軽に提案したり、意見し合えることが必要です。そして、提案や意見を基に職員間で協議し共通理解していくことで、足並みを揃えながら高め合っていくことに繋がります。

外部から吸収できるチーム作り

互いに学び合い高め合うチームになると、他の保育園や関係機関など外部からの学びもチームに生かせるようになります。

例えば、「他の保育園で子どもが科学遊びをやってたから、取り入れてみたい!」という提案を職員間で協議し、「このスペースを科学遊びの場所に使おう」「科学遊びのやり方を子どもたちに伝えるために、まずは大人がやってみよう」など、実現するための協議から、新たな共通認識が生まれますよね。誰かが提案したことを形にしていくことができるチームになれば、外部からもどんどん吸収できるようになるのです。

保育の質を高める落とし穴

「保育の質を高める」「職員の資質向上」が上手くいかない保育園も多いと思います。

これは私が失敗した経験談なのですが、保育を変えようとすると上手くいきません。先ほど保育の質を高める手順として書きましたが、順番が大事です。そして、そういった経験から保育方法や環境構成などを変える時にも、ゴールにたどり着くための段階を考えるように意識すると上手くいく気がします。伝えにくいのですが、実際にあった経験談の紹介です。

 

以前、一斉遊び中心から子ども主体の遊び中心へと変えようと取り組んだことがあります。

「子ども主体とはこんな保育です」「子ども主体にの保育はこんな実践をやってます」などの説明を先生方に必死で伝えました。しかし、全然響きません。なぜか考えた時に、組織としての方針がちゃんと定まっていないことが原因だと気づきました。「子ども主体の保育」へと変える必要性を先生方が感じていないということです。

また、日々の業務のそれぞれの役割分担が曖昧で、暗黙のルールのようなものも存在していました。職員間の仕事上のコミュニケーションが不足し、察し合いながら仕事をするような状況です。保育方法をいくら変えたところで、役割分担や連携が取れない状況では上手くまとまりません。

そのため、方針を固めることから取り組み、先生たちと一緒に業務のやりづらい点、困った点などを共有することから始めました。はじめは、ぎこちない感じがありましたが、少しずつ課題点が議題に上がるようになり、共有と改善を繰り返していくうちに、風通しが良くなっていくのを感じます。そして、もともと本題だった、保育方法についても少しずつ議題にあがるようになり、職員みんなで模索しながら変えていきました。

1つ1つの課題をクリアしていくことで、子ども主体の遊びや活動が増え、保育の方法も変わります。保育が変われば子どもたちの姿も変わります。保育がどんどん変化している最中は、更に職員間での情報共有を大切にしました。何かが変われば共有し、課題があれば共有し、そうすることで足並みを揃え職員1人1人が同じレベルで保育できるようになりますよね。

 

こういった経験をを経て、手順をちゃんと踏まないと保育は変わっていかないと思っています。
だからこそ、方針を定め組織としての一定の基準作りに重点的に取り組んだことで、職員1人1人の持ち味が発揮され変化が早かったのだと思います。

別の記事で、子ども主体の保育の紹介やその他の保育実践、子どもたちの姿の紹介なども書いていますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

↓の記事は、保育園と学童で子ども主体の保育についての実践を紹介した記事です。

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保育の質を向上する方法 まとめ

今回は、保育の質をテーマに保育所保育指針の内容に触れながらまとめてみました。
保育所保育指針の内容を改めておさらいしてみると、要点がしっかり書かれていることに改めて気づくことができます。

しかし、具体的な保育の実践方法までは書かれていないため、よく理解し自分で実践に落とし込む作業が必要です。海外の保育では、保育施設が達成すべき基準がかなり詳細に記載された指針があります。そのため、どの保育施設でも同じような保育環境が整い、一定の保育の質を保つことが出来ているそうです。やはり、保育の質を保つためには、満たすべき条件や基準が分かりやすく詳細に定められていることが重要なのではないでしょうか。

しかし、日本の保育所保育指針のメリットとしては、保育の内容が詳細に書かれていないことで、保育施設によって特色があることだとも言われています。どちらが良いのかは分かりませんが、すべての子どもたちが質の高い保育を受けれることが大切ですよね。

保育の質を高めるためには、手順が重要で保育の内容以前に保育園としての組織固めが重要だと紹介しました。そして、保育の質=保育士の質とも言い換えることができ、保育士1人1人の質が高まる事が必要です。私たち保育士が日々レベルアップしていきながら、子どもたちに最善の保育を提供できるように精進したいですね。