子ども主体という言葉をよく耳にします。
「子ども主体の保育」「子どもの主体性を引き出す」など。
言葉のニュアンスから、子どもが自ら取り組むことが大事なのかな?となんとなく理解できます。
しかし、いざ保育に落とし込もうと実践してみても上手くいかず悩む方も多いはずです。
私は、保育園と学童に勤務していますが、「子ども主体」を重視した保育を、職場の仲間とともに日々追求しています。
今回は、学童保育で子ども主体を実践する方法についての記事ですが、保育園でも当てはまることが多いので、ぜひ学童支援員さん、保育士さん、小学校の先生に読んでほしいなと思います。
子ども主体を実現するまでの経緯
まず、私の勤めている学童について簡単に紹介していきます。
もともと、学童支援員の資格も持っていない状態で学童に入ることになりました。当時の学童は、小学校を終えた子どもたちが通ってきて勉強をしたり、サッカーをしたり、玩具で遊んだりするような場所で、「サッカーをやりたい」という意見が出ると、みんなでグランドに行きサッカーのみで遊ぶといった感じです。
また、学童支援員が行事の企画を行い、大人からの出し物を披露したり、大人が企画したものに子どもたちが取り組んだりしていました。
私が学童に来た当初、すごく気になった点は、子どもたちの言葉です。
「ひまい」「帰りたい」「することない」「何かして」
元々、子ども主体に力を入れている保育園に勤務していた私にとっては、この言葉がすごく違和感でした。そして、どうにか子どもたちの姿を変えたいと感じました。
子ども主体がなぜ大事なのか
学童保育で子ども主体を実践していくために、なぜ子ども主体が大事なのかを職員みんなが理解することが大事だと思いました。
学童支援員の皆さんに私の話を聞いてもらう時間を設け、話しを聞いてもらいましたが、正直手ごたえが全くありません。
話しの内容が難しいということもありますが、何といっても私の伝える能力が低いことが問題でした。
伝えたかったことは、「日本の教育のレベルと教育スタイルについて」「これからの時代に必要な力について」「具体的な実践方法について」ざっくりとこんな感じです。
今となって考えると、少し話しをしただけで、すべてを理解し保育に落とし込むなんてできるはずがありません。
そこで、職員さんと最初に取り組んだのは、「大人が子どもに体験させたいことを壁に貼りだす」ということです。「壁に貼りだしたものを子どもが見て、自分で選び、取り組んだのであれば、子ども主体の保育はクリアできます」ということに限定して伝えました。これが子ども主体を実践するために、まず最初に取り組み始めた内容です。
なぜ子ども主体が大事なのかについては別記事にまとめてます。
子どもの主体性 を育む保育は、保育所保育指針にも記されており、本来の保育のあるべき形です。 しかし、日本の保育は戦後の教育体制からなかなか進歩がなく、海外に比べると教育が遅れているのが現状です。そして、保育所保育指針にも「子どもの主体[…]
遊び込む子どもたちを増やす
「大人が子どもたちに体験させたいことを壁に貼りだす」ようになり、次に取り組んだことは、遊び込む子どもを増やすことです。
冒頭に書いたように、「ひまい」「帰りたい」「何かして」と子どもたちが発言するのは、遊べていないから。
遊べていない理由としては、「自分で遊びを見つける力が育っていない」「学童でできる遊びが少ない」という理由が挙げられます。
そこで、学童支援員みんなで学童でできる遊びの選択肢を増やすことに取り組みました。
具体的に言えば、まずは学童にある玩具の見直しを行い、オルガン、人狼、トランプ、ウノ、ボードゲーム、ブロックなどを追加購入。そして、トランプにもババ抜きだけでなく、豚のしっぽや、お金、大富豪、七並べ、魚釣りなど様々な遊び方があるというように、大人が実際に遊んで見せたり、一緒に遊んだりしながら子どもに遊びを知ってもらいました。
学童でできる遊びや活動に幅が生まれてくると、少しずつ「ひまい」といった言葉は減っていきます。ある程度遊びが浸透していくと、子ども同士で遊ぶ姿も増えていき、子ども同士で遊び方を教え合うようになりました。
子ども主体を実践するためには、まずは、がっつり子どもたちと遊び込み、遊び方を伝えることが必要なのです。そして、遊び方を伝えるためには、大人が遊び方を知っている必要があるとも言えます。
子どもたちが作る学童行事
普段の遊びは、子どもたちが知っている遊びが増えたことで選択肢が増え自ら遊ぶようになりました。
次は学童行事も子ども主体へと変えていきます。
これまでの行事のやり方は、大人が企画したものに参加させるやり方でした。行事のやり方を変え始めた時に、控えていた行事は「やきいも」です。やきいもを大人が企画したり準備したりせずに、子どもたちが準備し取り組む方法を考えました。
まずは、やきいも行事があることを壁に貼り告知します。その内容は、「地域の人にもらった芋をどうにかしてほしい」と子どもたちに依頼しました。「やってみたい」と集まった子どもたちに行事企画書の様式を渡し、自分たちでやきいもの作り方を調べさせ、必要なものを準備させました。大人はほとんど介入しません。ただし、子どもが準備できないものは、大人に申請することができるように意見箱を設置しました。
子どもたちは結構ノリノリで、自分たちで役割分担を行い協力しながら取り組む姿が見られます。
その時の様子や、学童行事については別記事に詳しくまとめています。
「子ども主体の保育」や「子どもの主体性」など日本の乳幼児教育が見直されつつありますね。 「海外に比べると日本教育はかなり遅れている」このことを知ったのは、保育士1年目の時。 私は、恵まれたことに最初に入社した保育園で、恩師に出会[…]
学童の行事について検討中の方へ。 保育の実践付きで学童の行事を紹介します。 ついでに、以前子どもたちにとったアンケートを基に、人気ランキングトップ3を記入しています。 参考にしてみてください(笑) 学童の行事 「子ども主[…]
このように、大人が企画し準備していた行事を、子どもたちが考え、準備する方向へと少しずつ変えていきました。
職員間で話し合って気を付けていた点は、行事への取り掛かりを早めたことです。子どもたちが準備するためには、それなりに時間が必要ですので、子どもたちに周知するのは2~3カ月前を目標に、行事の方向性を固め、子どもたちにどんなアプローチをするかを大人同士で話し合いました。
欠かせない安全管理・ルール作り
普段の遊びが充実したことで、「ひまい」という言葉が減り自ら遊び込む姿が見られるようになりました。学童行事も子どもたちが企画し準備する形へと変化することで、遊びの中で行事の製作物をしたり、調べ物をしたりする姿が増えました。
大人が強制的にやらせている訳ではありませんが、子どもたちのやることが増え「○○もしたいけど、○○もしないと」「忙しい」などの声が聞こえてきます。ここまではすごく順調でした。
反対に、当時課題となった点は、安全管理です。
子どもたちから「薪拾いに行きたい」「川で釣りをしたい」「工具を使いたい」などの要望が上がるようになりましたが、ケガや事故のリスクも感じたため安全管理についても見直しました。
・学童の外に出る時の報告事項
・子どもの人数確認の方法
・熱中症、ケガの処置、感染症のマニュアル
・玩具や道具の使い方の基準作り
・大人の立ち位置や連携方法
・保護者への伝達の徹底
こういった内容を見直し、仕組みを作っていきます。結構大変でしたが、職員間で話合いながら1つ1つクリアしていきました。
子どもたちにも、ケガや事故の危険性を伝えて学童内のルールを一緒に作っていきます。ちゃんとした理由があれば、子どもたちが反発することはありませんし、むしろ協力的にアイデアを出してくれました。
子ども主体を実現するためには、こうした安全管理は必須になります。そして、学童支援員1人1人の質の向上も絶対条件です。
私たちが取り組んできたことは、安全管理を見直しただけでなく、組織内で情報を共有する習慣作りにも力を入れました。やはり、良い保育を実現するためには、職員1人1人の質の向上が絶対条件ですので、お互いに意見し合い、高め合える組織にならなくてはいけません。
保育園は情報共有がすごく大事!と言われてピンとくるでしょうか?? このことに気づいたのは、数年前の保育の改革中です。前の職場で、先輩に指摘されたことがありましたが、その時はそこまで響いておらず、長崎の園に来てようやく、「共有」の重要性[…]
ここまで、子ども主体を実現するまでの経緯についてざっくり紹介しましたが、長くなってしまいました…。
今もなお、職員間で反省と改善を繰り返しながら少しずつ変化を続けています。
ここから、具体的な実践の紹介に入っていきますので、ぜひ最後までお付き合いください(笑)
子ども主体の実践案
環境構成
子ども主体の実践には、環境を整えることが必要になります。なぜなら、冒頭でも書いたように遊びを充実させ子どもに選択肢を持たせなくては、自ら遊ぼうとする姿が生まれないからです。
大事なのは、遊びが充実していることや、勉強に集中したい、静かに過ごしたいという子のスペースも保障してあげることです。
保護者向けに作った環境紹介の動画があるので貼っておきます。
クエスト
子ども主体を実現するためには、子どもの遊びの選択肢を増やすことが大事です。
そのために学童支援員がすべきことは、遊びのキッカケを作ってあげること、子どもの遊びを発展させていくことだと思います。
そのためのアイデアとして、私たちが実践しているクエストは非常にお勧めです。
クエストについては、別記事に詳しくまとめています。
「子ども主体の保育」や「子どもの主体性」など日本の乳幼児教育が見直されつつありますね。 「海外に比べると日本教育はかなり遅れている」このことを知ったのは、保育士1年目の時。 私は、恵まれたことに最初に入社した保育園で、恩師に出会[…]
意見箱
子ども主体を実践するためには、子どもが自ら意見したり提案したりする力が必要です。
「○○をしたい」という言葉が子どもたちから出るようになるのは以外と難しいかもしれません。
以前の学童では、意見する前に「どうせできない」「どうせダメでしょ」と発言する前から諦める子ばかりでした。それは、保育園の時期や小学校で、子どもの意見が尊重されてきていなかったからだと思います。やはり、大人主導で大人が指示を出して子どもを動かす教育では、なかなか子ども1人1人の意見を拾ってあげるのは難しいです。
まずは意見箱を設置し、「意見箱に入れてみたら?」と一緒に意見箱を活用していきました。そして、子どもから出た意見にちゃんと返答してあげることを繰り返します。時には、安全面を考慮して断る場合もありましたが、ちゃんとした理由を伝えると「じゃあ、こうすればできる?」と別の案を提案してくれます。今では、意見箱が空の状態が珍しいくらいになり、日々の取り組みが充実しています。意見箱の取り組みを通して何よりも大事だと感じたことは、子どもの意見に耳を傾ける姿勢と返答してあげることです。
意見箱について保護者向けに作った動画がありますので貼っておきます!
ここまで、子ども主体を実現するための実践案について紹介しました。
細かく言えば、学童支援員が子どもの遊びを発展させることや、遊べない子へのアプローチの仕方、勉強をさせるかどうか、朝の会などの集まりをすべきかなど色々ありますが、別記事で紹介していたり、YouTubeで紹介していたりしていますので、今回はこのくらいにしておきます!
子ども主体のよくある間違いや失敗
最後に、子ども主体のよくある間違いや失敗についてです。
冒頭でも書きましたが、子ども主体という言葉から、「子どもが自主的に取り組む」となんとなく理解した気になってしまいがちです。「ご褒美があるからやってごらん」とお菓子で釣るようなやり方が子ども主体と言えるのでしょうか?また、「子どもがやりたいと言ったので」と子どもの提案は必ず叶えてあげるべきなのでしょうか?
子ども主体がなぜ大事なのかを考えると、子どもが将来社会に出た時に生きていく力を養うためです。
いつまでも子どもに寄り添って支えてあげる訳にはいきませんし、ご褒美を用意してあげる訳にもいきません。子どもが自分で考えたり、自分で気持ちを切り替えたり、大人を必要としない形を目指していくべきではないでしょうか。
そして、学童支援員は学童に通ってくる子どもたちの安全確保が第1条件です。
いくら子どもが提案したことと言えど、断るべき場面はあります。そして、人として間違った行為は叱ってあげるべきです。子ども主体を意識すると、「子どもに対してどこまで介入すべきなのだろう?」と悩むことが増え、子どもに寄り添い過ぎてしまうこともあると思います。
私たちも、日々悩みは尽きませんが、そもそもなぜ子ども主体が大事なのか?学童支援員の役割とは何か?といった本質的な部分を見失わないようにすることで、間違いが減るはずです。と言っても、保育に正解はないと思っていますので、トライ&エラーしていくしかありません。
1番やってはいけない間違いは、これが正しいと決めつけてしまうことです。
最後に
今回は、私の勤めている学童保育の事例をもとに紹介しました。
子ども主体の考え方は、東京の新宿せいが子ども園に勤めていた時に学ばせてもらったことが土台となっています。
当時、園長先生が「保育や教育は常に変化し続けるもの」と口にしていました。
保育に正解はなく、目の前の子どもと真剣に向き合いながら最善の保育を模索し続けることが大事であり、子どもの姿によって最善の保育は常に変化するということです。
そう考えると、保育士や学童支援員の職業のすばらしさを感じませんか?