我慢ができない子どもが増えた原因は”主体性”を重視するから⁉

我慢ができない子どもが増えてきていると感じませんか?

保育士・幼稚園教諭・小学校教員など、普段から子どもと関わる方は、「なんとなくそんな気がしてた」と思うかもしれません。
保育士をしていると我慢ができない子どもが増えたと感じる場面もですが、「発達障害」「グレーゾーン」などに当てはまる子どもも増えている気がします。

最近、「我慢ができない子ども」について面白い研究を耳にしました。

今回はその研究の紹介と、我慢する力を養うためにどんな関わり方が重要なのか?のポイントを紹介したいと思います!

我慢ができない子どもが増えた⁉

これから紹介する内容は、養老孟司さんのバカ増殖中の日本に知の巨人が警鐘…「精神年齢が幼児の大人」が社会システムを腐らせる絶望的事実という記事に書かれた内容をもとにしています。

養老孟司さんとは、1937年、神奈川県鎌倉市生まれの 解剖学者。 東京大医学部教授を務めた後、名誉教授になる。 「日本人の身体観」「唯脳論」「バカの壁」など多くの著書を執筆されています。

養老さんの言葉に小学生を対象にした興味深い研究が出てきます。「子どもの辛抱」についての研究。

子どもの辛抱についての研究

【研究内容】
子どもにパソコンの画面を見せる。「この場合はボタンを押す。この場合は押さない。」と指示を出す。年齢別に間違える割合を調べる。
【研究結果】
当時の小学校6年生と2年生で同じくらいの割合で間違えた。「6年生なのに、2年生くらいの辛抱しかできなくなっている」という結論を出した。

養老さんはこの研究結果にこう言います。「子どもだから素直だと言えばその通りですが、かつては教育なりしつけなりが、分別や我慢を教えていました。共同体の中で、抑制はひとりでに養成されていたんです。それがなくなって野放図に育った人たちが、社会の主流を占めるようになったんじゃないですか。」

この結果は、すごく興味深いですよね。我慢ができない子どもが増えていることを示す結果となりました。保育をする側としてもこの結果は無視できません。

マシュマロテスト

我慢ができない子どもと言えば、マシュマロテストが有名ですよね。1個のマシュマロをすぐに食べずに我慢する(=目先の欲求を辛抱する)と、2個目のマシュマロがもらえる(=将来のより大きな成果を得る)です。

研究結果としては、「4歳時点でマシュマロ・テストをクリアする子どもは人生に成功する」という結果が出されました。4歳時点で、マシュマロ・テストをクリアする子とクリアしない子を追跡調査したところ、大学進学適性試験(SAT)の成績を比較するとマシュマロ・テストをクリアした子は、人間社会において成功しやすいことが既に立証されています。

 

我慢の研究繋がりでマシュマロテストも紹介しましたが、昔の子と今の子を比較したという研究は聞いたことありません。どんな違いが見られるのでしょうか。気になりますね。

子ども主体の教育の落とし穴

現在、教育が急激に変化してきており、大人主導の一斉教育から子ども主体の教育へと方向転換しています。このサイトも、子ども主体の保育を模索し、保育方法や実践紹介がメインです。

子ども主体の保育のデメリットとして、”子どもが我慢する力が育たない可能性がある”のかもしれません。

 

普段から子ども主体の保育を模索されている方は体験したことのある悩みだと思いますが、子どものやりたいことを実現さえてあげたい反面、子どもがわがままに育ってしまうのではないか…という葛藤があるのではないでしょうか?

まず、押さえておきたいポイントとしては、子ども主体=子どもの思うがままではないです。

 

”子どものやりたいことをやらせてあげたい”
”大人の都合で保育したらいけない”
”子どもを叱ったらいけない”

 

などに捕らわれすぎて、子どもたちがやりたい放題になるのは子ども主体の保育ではありません。それは、放任です。

 

子ども主体の保育とは、守らなければいけない枠の範囲内で、子どもたちが自ら選択できるようにすること。

言葉ではすごく伝わりにくいですよね…。保育の具体的な場面で考えてみましょう。

保育で悩む場面

問1、室内で遊んでいる時間に、子どもから「外で遊びたい」と言われたらどうしますか?

→状況によりますが、大人が2名以上いて室内遊びと外遊びで分かれることができる場面もありますよね。反対に、室内遊びがすごく盛り上がっていて遊びを止めたくない場面や大人が1人しかいないため、室内か外かどちらかに限定しなくてはいけない場面など様々な状況があります。このような場合に大事にしたい点は、大人次第で子どもの要望に応えられる時は応えてあげることです。しかし、要望に応えたことで、他の子を制限しなくてはいけないのであれば子どもと相談するべきかもしれません。

「今、室内遊びだから外遊びは×」など良く分からない理由で断ったり、理由も言わずに断るのはNG。

外で遊びたい子どもに、室内で遊びたい子どものことも考えさせるよな声掛けや関わりを通して、他の子のために我慢す体験は必要なことではないでしょか。

 

問2、大人が話している時に、子どもたちが喋り出して騒がしい。こんな時どうしますか?

→私は、「うるさい」と一方的に叱りつけるのはNGだと思っています。そもそも、子どもは喋りたがるものです。私も経験したことがあることですが、「先生はこう思います。みんなはどう思う?」などの質問をした時に、複数の子が喋り出して収集がつかなくなってしまうことがあります。しかし、「○○君に聞きたいと思います!」など聞く相手を限定していればそうはなりません。
また、大人が話している時に、間を空けて話すと子どもたちはしゃべり出します。こうした経験を経て、話しの最中に子どもたちが喋り出してしまうのは、大人の工夫不足だと思うのです。
また、「今、先生がしゃべってます」「先生がしゃべっている時は静かに聞きます」なども子どもに言いがちですよね。子どもたちにそう伝えるのであれば、大人も普段から子どもの話していることを遮らずに最後まで聞くべきです。

喋りたい気持ちを我慢したり、話す順番を待ったり、話を遮られた人の気持ちを考えたり体験は必要なことではないでしょうか。

 

 

問3、行事の練習をやりたくない子がいた時にどうしますか?

→もうすぐ発表会だからと、子どもたちに練習を促す場面がありますよね。その時に「やりたがらない子」がいると困ります。私は、こういった場面がある度に反省を繰り返していました。子どもたちを急かさなければいけないのは、自分の段取り不足だと思うからです。早め早めに準備し、取り掛かっていれば子どもたちの負担も減らすことができますよね。まずは、「やりたがらない子」が悪いのではなく、自分の準備不足だったかもしれないと思うことは大事だと思います。

しかし、それでも練習をさせないといけません。そんな時は、「なぜ練習をやりたくないのか?」を知ることが大事です。理由を聞くだけで心変わりする時もありますし、改善策が見つかるときもあります。NGなのは「嫌じゃないでしょ!」「やらないとダメ!」など強制的にやらせることです。

自分のやりたいことよりも、クラスのみんなで取り組むことを優先したり、自分の気持ちに折り合いを付けたりする体験は必要なことですよね。自分の気持ちに折り合いをつける体験をするためには、自分のことだけではなく他の人の状況や気持ちなどを知る必要があるため、保育士は気づかせてあげることを大事にすべきだと思います。

 

 

問4、食事の最中に、立って動き回ったり食器で遊んでいる時にどうしますか?

→こんな場面でも、叱るべきなのかと悩むことがありませんか?この場合は子どもの発達段階にもよりますが、食事中のルールやマナー、危険性などを分かりやすく伝えることが重要です。普段から「食事中は遊ばない」という決まりを子どもたちが理解していることが必要で、それすら伝えずに好きにさせるのは放任と言えます。決まりを理解した上で、わざとやっている場合は、叱ることも必要です。ただし、なぜ叱られているのかの理由もちゃんと伝えましょう。

そして、「食事中に遊ばない」という決まりを作るのであれば、食事のスペースと遊びのスペースを分けメリハリのある環境を作ることも必要です。

集団生活のルールを知る体験、ルールを守ろうとする体験は必要なことではないでしょうか。そのためには、子どもたちが理解し納得できることが重要で、ルールを分かりやすく伝えることが大事です。

 

 

問5、何か作業をしている時に「先生一緒に遊ぼう」と言われた時にどうしますか?

→子どもたちに遊びに誘われる場面は多いですよね。ついつい「後でね」「ちょっと待って」と言ってしまいませんか?
子どもたちに遊びに誘われた時には、遊んであげればいいと思います。しかし、その子とずっと遊び続けることは不可能ですですよね。保育士は他の子も同時に保育しないといけないからです。そのため、すべてを受け入れることが良い訳でもありません。

子ども同士で遊べるように声をかけたり、時には断ることも必要です。誘いを断るのであれば、なぜ一緒に遊べないかの理由をしっかり伝えましょう。また、「後でね」「ちょっと待って」と子どもを待たせるのであれば、落ち着いた時に「遅くなってごめんね」と蔑ろにしないようにしましょう。

相手が大人であっても、子どもが他人の立場にたって我慢する体験は必要なことではないでしょうか。大人にも思いや考え、立場があることを子どもに伝えていくべきです。保育士は子どもたちを安全に見ないといけないことや、今は○○の準備をしないといけないことなど、子どもに伝えることで気づいていきますよね。他人の立場になって考えたり他人の気持ちに気づいたりすることが我慢に繋がっていきます。大人は子どもにもちゃんと説明することを大事にしなくてはいけません。

 

 

保育で悩みそうな場面をいくつか例に挙げてみました。

こうした場面での、大人の関わり方次第では我慢ができない子どもに育つ可能性があると思います。
冒頭の養老さんの言葉の中に、「教育や躾の中で、自然と我慢する力が身に付いた」とありましたが、昔は兄弟が多かったり、地域の子と遊んだりと、子どもが他者と関わる機会がありふれていました。しかし、今ではほとんどなくなってしまいましたよね。

だからこそ、保育園では子どもが他者と関わる機会を大事にし、我慢する体験を大事にしないといけません。保育園には、みんなで使う玩具や道具がありますし、大人を独り占めすることもできないなど我慢する場面が沢山あるのです。また、保育園の集団生活の流れに合わせながら生活することも身につきますよね。このような保育園での体験こそが子どもたちにとっての学びであり、成長に大きく影響していきます。

子どもの主体性を重視することと、必要な我慢をさせることの見極めは難しいことですが、それこそ私たち保育士の役目であり、専門性なのではないでしょうか。

 

我慢ができない子どもに必要な環境

子ども主体の保育と子どもが我慢する体験の重要性と難しさについて書きました。

大人の都合だけでただ我慢させるのはNGですが、他者の立場になって考えさえるような声掛けや関わりは重要です。
保育園で子どもに我慢させる必要のない場面は度々目撃します。仕事上、様々な保育園を見学に行きましたが、多く見られる場面を紹介しますね。

大人の都合で我慢させる例

・長い時間、静かに座って待たせる
・パンツを履きたいと訴える子どもにオムツを履かせる
・「○○ちゃんは使うの禁止」と禁止事項を作る
・掃除した後だから製作遊びを禁止する

こんな感じでしょうか。

子どもとの約束があったり子どもが納得していたりする場合は、話しは変わってきますが、簡単に言うと、「大人が面倒くさいから」「大人が準備不足だから」などを理由に子どもの行動を制限するのは、大人の都合を押し付けていることになります。
以前、大人が準備をする間などに子どもを待たせていて、騒がしくなると子どもたちが怒られるような場面を目撃しました。理不尽すぎますよね…。”叱りつけて静かに待たせる”ことに違和感を感じないのか不思議です。まさに大人の都合で子どもたちに我慢させている場面と言えるのではないでしょうか。

 

逆に、我慢する体験をするために必要な環境の例も紹介しますね。

我慢する体験ができる環境 例

・玩具の取り合いが起こる環境
・遊びや給食の配膳などの順番待ちをする環境
・栽培から収穫までを体験できる環境
できない理由を伝えてくれる大人がいる環境

こんな感じでしょうか。

玩具の取り合いを通して、悲しさや悔しさ、他者への共感など多くのことを感じ吸収します。1人1つの玩具があれば、取り合いが起こる頻度も少なくなりますよね。意図的に環境を作るというのは、あえて玩具の量を少なくし、取り合いが起こる可能性を高めていることなどが当てはまりますし、我慢する体験を積み重ねるためにも必要だと思います。

また、生活の中で順番待ちをする場面。私の勤める園では、食事はバイキング形式です。順番に配膳を済ませ好きなテーブルに座り、全員が揃ったら、今日の献立の話とアレルギー確認をして「いただきます」の挨拶をします。
配膳中は、順番待ちをしなくてはいけませんし、早く済ませた子もテーブルで揃うのを待たなくてはいけませんよね。
これも、必要な我慢の体験と言えるのではないでしょうか。

そして、私が一番大事だと思う点が、できない理由を伝えてくれる大人がいる環境です。
子どもから「一緒に遊ぼう」「○○がしたい」と言われた時に、大人側にも都合がありますよね。大人の都合と言っても「面倒くさい」などではなく、「部屋全体を見なくてはいけない状況で、遊んであげる余裕がない」「今すぐに、やるべきことがあって遊んであげれない」など。

 

そんな場合は、そのままその理由を子どもが理解できるように伝えましょう。

 

子どもは理由を聞くとちゃんと分かってくれますし、「じゃあ、それが終わったらね!」などと言ってくれます。
保育で悩む場面を上記で紹介しましたが、「どうしよう…」と悩んだ時は、大人側の状況を子どもに伝えてみると、子どもの方から改善策を提案してくれることもありますよね。

そして、子どもが我慢する場面の多くは、他の人の存在が必要になります。保育園で他の子と関わりながら、様々な気持ちを体験していくことが子どもの我慢する力を育むことにつながるのです。だからこそ、子ども同士の関わり合いは大事にしなくてはいけませんし、関わりが生まれるような環境を作ることが大事だと言えます。

我慢ができない子どもにどう関われば良いのかと悩まれている方は、ぜひ環境作りや大人の関わり方を見直してみてください。
保育園だけでなく、家庭での大人の関わり方もかなり影響するため、保護者にも伝えていけると良いですよね。

我慢ができない子ども まとめ

今回は我慢ができない子どもをテーマにまとめてみました。

我慢ができない子どもが増えているのは、子どもを取り巻く環境の変化など様々な要因があります。
子どもたちの成長を第一に考えながら、時代に合わせて保育の在り方も変えていかなくてはいけません。
普段は、子ども主体の保育の重要性をメインに発信していますが、今回はあえてデメリットの部分として紹介してみました。子ども主体の保育の難しい点であり、悩む方も多い点だったのではないでしょうか。

私自身、悩みながら一番いい方法を模索して保育していますが、悩みながら保育することに意味があると感じています。